2月4日から2月16日まで開催中のbaroonworkshopさんによる『山暮らしの羊毛たち』展。和歌山県の山中にあるアトリエから届いた、羊毛フェルトでつくられたあたたかみのあるアクセサリーや雑貨、タペストリーが会場を彩ります。今回の展示や制作について、お話を伺いました。

-自己紹介と普段の活動を教えてください。

海外で生まれ育ち、30数年ぶりに日本へ帰国しました。和歌山県田辺市の山間部にある林業と温泉が有名な龍神村にて小さなアトリエと「泊まれる羊毛ワークショップ baroonworkshop」を営んでいます。龍神村や和歌山をコンセプトに龍神の森から採れた木々や近所の自然を材をつかったものづくりを心がけています。紀州の温泉水を使って、子供や大人、手先が不器用な人もみんな楽しく羊毛クラフトを体験できるワークショップを開催しています。

-羊毛との出会いについてお聞かせください。

東南アジア旅行でタイに行ったときに毛糸のお店を見つけて、こんな暑い国でも毛糸が売ってるんだと興味本位でお店に入ったんです。中にはたくさんの毛糸と小さな羊毛フェルトのコーナーがあり、そこで初めて羊毛フェルトのことを知り初心者キットを購入したことがきっかけです。その後東京で「日本羊毛フェルトクラフト協会」のインストラクターコースを受講し、羊毛クラフトのワークショップと作家として活動を始めました。

-今回の展示は主にアトリエがある「龍神村」の山と温泉と羊毛をテーマに作品をつくられたとのことですが、龍神村にはいつどのようなきっかけで移住されたのですか?また、移住されたことでどのような変化がありましたか?

龍神村へ移住したきっかけは、一言ではなかなか表せないのですが…「ご縁」だったのかなと思います。都会での生活がとても息苦しくて生きづらくて、少し環境を変えてみたいと思っていたときに和歌山県に旅行することになりました。当初は海の近くに住みたいと思っていたので、和歌山県南部の海を見たときになんてきれいな海なんだろう。私、和歌山に移住する!と決意しました。その後東京にあるふるさとサポートセンターへ問い合わせをして、後日一緒に現地訪問をすることになりました。スケジュールを組む中で半日時間が余ってしまい、山間部だけど龍神村という場所もみてみませんか?と勧められたので、海辺ではないけど見るだけ見ておこうかなという軽い気持ちで空き家見学をしました。その空き家のお庭に入って目の前の山景色を観た瞬間にピンときて、その場で入居を決めました。それが今のお家です。あれだけ海辺がよかったのに…今では山暮らしの方が楽しいなと思います(笑)

移住して大きく変わったのは自然との接し方ですね。都会にいたときより身に染みて四季を感じるようになりました。龍神村の冬はとにかく凍えるように寒い!今年は雪も沢山降りました。少しずつ暖かくなると梅のつぼみが咲き始め、鳥や動物の鳴き声が聞こえてはじめたら山菜のおいしい春。その後、ムカデが出現するようになったら梅雨シーズン到来、初夏には梅の摘果をしてシロップや梅酒を作って、真夏は川遊びに草刈り地獄。お盆を過ぎたら川辺にアユ釣りの人が現れ始め、お庭の柿の木が食べごろになり、少しずつまた寒くなり灯油ストーブの匂いが家中をめぐり始めたら冬。四季ならではのイベントが沢山あるので、1年が本当にあっという間です(笑)

-羊毛、流木や温泉水など、作品に使われている素材の多くが自然由来のもので、あたたかみを感じます。昔から自然にふれる生活をされていたのですか?

生まれてから大人になるまで正直言って自然とは正反対のコンクリートジャングルで生活していました。虫もとても苦手です。でも自然に囲まれた生活に漠然とした憧れは持っていたと思います。

-制作のアイディアやインスピレーションはどのようにわいてくるのですか?

普段から常にアンテナを張るようにしています。最近の作品は「和歌山」と「龍神村」をテーマにしているものが多いので、「これってワカヤマっぽいかな?」とか、「あ、この枝何かに使えないかな?」とか考えながら素材探しをしています。

-今回の制作や展示を通して、なにか新しい発見などはありましたか?

今回の展示を準備・搬入するにあたり、「羊毛の魅せかた」について自分なりの新しい発見が多々ありました。これからも色んな多ジャンルの方々の展示会を参考にしながら自分らしい「羊毛の魅せかた」を作り上げていきたいと思います。

-最後になりましたが、今後の予定や目標もぜひお聞かせください。

「羊毛フェルト」というと「手芸」・「ふわふわ」・「冬」というイメージが強いかと思います。もちろん手芸やホビーのジャンルとして扱われることが多いのですが、欧米では生活する中で暮らしの一部として使われているものが多いように感じます。靴、帽子、かばんや石鹸など、羊毛がもたらしてくれるのは温度の温かみだけではなく、気持ちのゆとりだと思うんです。ゆったりとした時間を楽しむために、羊毛フェルトをする。

私の最終目標は、今ある「羊毛フェルト」という言葉の固定概念をリメイクすることです。いつかは「羊毛フェルト」=質のある暮らし方・スローライフ・ライフスタイルとして認識してもらえるように、新しい「羊毛フェルト」の在り方を自然の素材や自分なりのユニークな視点で刷新し、ものづくりを続けたいと思います。  


baroonworkshop

海外で生まれ育ち、30数年ぶりに慣れない日本での生活を始める。2014年から中国・北京を中心に羊毛クラフト作家としてワークショップや作品制作などの活動をしていたが、和歌山県龍神村の空き家と出会い、姉妹で移住をする。2020年から「泊まれる羊毛ワークショップ baroonworkshop」を起業し、羊毛クラフトと龍神村の魅力を羊毛ものづくりを通して発信している。
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