リソグラフ印刷で使われる半水性インクは重なる部分が混色するため、インクの組み合わせ次第で様々な色を表現できます。

そのため多色印刷では異なる色のインクで印刷することが一般的ですが、ごく稀に同じインクで多色印刷をご希望されるお客様や、「同じインクで重ね刷りをしたら色が濃く印刷されますか?」などのご質問をいただくことがあります。

そこで今回は同じインクで重ね刷りをしたらどうなるのか、
実際にお客様のご注文でもあった白インクを使って検証してみます!


まずはデータを用意します

白インクの視認性を高めるため紙はまっくろ(厚紙)を使います。
レントゲンのイメージで、骨と体の絵柄で白インク版を2つ用意しました。

かなりシンプルな形になりましたが上が骨、下が体のイラストです・・・。

重なったときの濃度差を見るため、それぞれ不透明度90%・60%・30%に設定して白インク2版、骨(上)×体(下)の刷り順で印刷してみます。

いざ印刷!

こちらが実際に刷り上がったものです。
この中から幾つかピックアップして、仕上がりを見比べていきましょう。

まずは不透明度90%の高濃度同士のもの。

同じ不透明度の骨(90%)×体(90%)だと重ね刷りした部分が濃くなっているのがわかります。(若干ですが・・・)
白インクの重なっている部分といない部分では紙地の透け方に差があり、また白インクの粉っぽい質感が増しているため、ほのかにインクの重なりを感じることができます。

こちらは版分けした絵柄をデータ上で重ねて表示し、白インク1版で製版したもの。

不透明度90%同士だと絵柄が馴染んで骨抜きボディになってしまいました・・・。

しかし2版に分けても骨(30%)×体(90%)のように下に重なる絵柄の濃度が高いと上の薄い絵柄が馴染んで骨の絵柄がボンヤリ~・・・視認性が悪くなってしまいました。

また骨(60%)×体(30%)のように濃度差を大きくしただけではデータ上で濃度調整を行った1版で表現できるので、2版に分けて重ね刷りする必要性が感じられない仕上がりに・・・。

では高濃度同士の絵柄だと重ねれば重ねるほど濃くなるのでは?
そう思い、体の絵柄の上に骨の絵柄を3回重ね刷りしてみたのがこちらです。

たしかに1回だけ重ねたものよりも少し濃くなっているような・・・?
しかしその差はかなり微妙なもので、何より絵柄のズレが気になりますね。
まっくろに白インクなのでまだ濃度差の視認ができますが、別の用紙・インクだとわかりずらくなる可能性もあります。
インクの濃度を上げたい!発色を良くしたい!からといって何度も重ね刷りしても、明確な効果は得られなさそうです・・・。

違う色のインクを挟んでみる&インク・用紙を変えてみる

白と白の間に別のインクを挟むとどうなるのでしょう。
刷り順は上から白(骨)→蛍光ピンク(臓器)→白(体)です。

レントゲンでこんなにビビッドな臓器が見えたら恐怖ですが気にしないでください。

先ほどまでの白インクのみとはまた違った表情になりました。
蛍光ピンクが間に挟まることで混色している部分といない部分の濃度差が分かりやすく、より白インクの重なりを感じることができます。

今度はインクを水→蛍光オレンジ→水に、
用紙をチャイ(厚紙)に変更して印刷してみました。

何やら見慣れない仕上がりに。

まっくろに白インクと比べ、インクのかすれが少なく紙地が目立たなくなることでインクのマットな質感が表現されています。
写真ではなかなか伝わりずらいのですがスケルトンカラーのような独特な透け感ある仕上がりになりました。

検証結果

同じインクで重ね刷りすると若干ではありますが濃くなることが判明しました。

しかし高濃度同士でなければインクの重なっている風合いが感じずらく、濃度が低いと1版で濃度差をつけたデータとあまり変わらない仕上がりになります。
また細かいデザインだと馴染んでしまう、もしくはズレが目立つ可能性もあるので使い方には注意が必要です。

万能な手法ではありませんが、工夫次第では仕上がりに微妙なニュアンスやインク混色のレイヤード効果を加えたいときに使えるかもしれません!

同色インクの重ね刷りを希望する場合は、ご注文時の備考欄に仕上がり希望のインク順を明記してご指示ください。(記載がないと確認工程が必要になる場合がございます)

少し複雑なテクニックなので、まずは試し刷りで仕上がりを確認することをオススメします。マニアックなレトロ印刷ユーザーの方は是非お試しあれ~!

レトロ印刷は、リソグラフ(デジタル孔版印刷機)での印刷を専門とする印刷所です。『印刷のタネ』ではレトロ印刷の入稿のコツや使い方を、『JAMLAB』ではリソグラフやシルクスクリーンを使った実験や遊び方を紹介しています。

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